NMRは難しくて使えない③:NMRのキーワード
これまで2報NMRの記事を書きました。
このまま原理を一から式を説明していこうと思っていましたが、それでは読者を置いてきぼりにしてしまいそうなので、まず、用語の説明を一通りしてから、各式を説明していくのがいいと思いました。
横緩和と縦緩和
三次元に考えて、磁化の向きを縦と横に分解します。
緩和とは平衡状態に戻ることをいいます。
つまり、磁場によって得たエネルギーを縦方向、横方向で異なる運動をしながら放出していく過程です。
縦緩和の運動
最初と最後が平衡状態です。このように熱平衡状態に戻ろうとする過程は緩和過程と呼ばれます。
外部磁場と平行な成分を縦磁化、外部の磁場に垂直な成分を横磁化といいます。
NMRでは、3次元の座標は垂直方向にz軸を置くのが通例?です。
これまでの数学や物理と異なる点だと思います。注意していください。
縦磁化が熱平衡に戻る速度を$1/T_1$として、緩和過程は
$$M_z (t) = M^0 {1-exp-t/T_1)}$$
とあらわせれます。この$M_z$は縦磁化を表します。同様に、横磁化は$M_x,_y$と表します。ちなみに式に出てくる$M^0$は熱平衡時の縦磁化の大きさを表しています。
つまり、$M^0$は単位体積当たりの電子密度を表しています。
分子運動によって決定する$T_1$はスピン格子緩和時間または縦緩和時間と呼ばれる。
横緩和の運動
横磁化は、磁場によるトルクを受け回転しながら熱平衡に向かいます。
エネルギーを失う速度を$1/T_2$とすると、磁化のx成分、y成分は以下のようになります。
$$M_x (t) = M^0 cos (2 \pi \nu t) exp (-t/T_2)$$
$$M_y (t) = M^0 sin (2 \pi \nu t) exp (-t/T_2)$$
これらの式にラーモア周波数は核に固有です。
つまり、これらの式から分かることはNMRはラーモア周波数を求める測定と言い換えることもできるでしょう。
逆数の$T_2$はスピンースピン緩和時間または横緩和時間といいます。
以上をまとめると
横緩和はめっちゃ早いです。
Tips
この横緩和は3つの過程をもっていて、それぞれ、結晶、中間層、非晶でことなるために、ポリマーの結晶化度などもおおむね分かります。
この際使用するフィッティングはアブラガム関数を用いています。
ラーモア周波数
スピン量子数が$1/2$のときに、2つのエネルギー準位(ゼーマンレベル)が存在し、このエネルギー差を周波数単位で表すと、
$$2 \pi \nu = – \gamma B_0$$
比例定数の$\gamma$はそれぞれの核に固有の核磁気回転比です。
よく、「500 MHzのNMR使った~」などといいますが、この500 MHzは、$^1H$の共鳴周波数であり、例えば$^13 C$の核種を使う場合には、$^13 C$のラーモア周波数は約$1/4$なので、約125 MHzとなります。
ちなみに、式中の符合は測定に関係しますが、共鳴周波数を表すときには絶対値で表します。
オンレゾナンス・オフレゾナンス
rf照射する回転磁場の回転周波数が一致するとき、rf照射はある核についてオンレゾナンスであるといいます。
一方で、周波数に差があるときには、オフレゾナント呼びます。
このrf磁場の強度も周波数表示可能です。kHz単位で表すことが多いです。
シム
シム調整や分解能調整とよびます。
どんな操作かというと、静磁場中でも試料中強度ムラがおきます。このムラを試料のまわりに設置されているコイルに電流を流して補正磁場をかけることで小さくする操作がシム調整です。
ロック
時間がたつと試料のムラがまた出てくることがあります。一番身近なのが濃度ムラですね。
この時間に依存したムラを小さくする操作をロックといいます。
方法としては、溶媒中の重水素を設定して、時間に依存した変化をモニターします。
時間依存して変動していくと、追加磁場の制御に指令をだします。
この一連の操作をロックまたはNMRロックといいます。
チューニングとマッチング
NMRでゼーマン分裂させるためには、核に最適なラーモア周波数を同調させることが必要になります。
試料間の誘電率の違い、温度変化によってラーモア周波数が微妙にことなります。
このラーモア周波数の違いは、90度パルスの長さもずれ、感度に大きく影響します。
チューニング
チューニングは共新周波数を共鳴周波数に合わせること。
マッチング
コイルの感度をよくすること。
以上の操作は可変コンデンサーを用います。
Brukerのコマンドで言えばオートでチューニング、マッチングをする「atma」や固体NMRであれば「wobb」などのコマンドで出てくる下に凸のピークみたいなやつです。
ちなみに、このピークは照射エネルギー効率を表しているのですが、核種によって場所が全然違うので注意が必要です。特にマニュアルでやるときには注意です。これは核種によってラーモア周波数がことなることによります。
積算
分光法全般に関することですが、一般的に、励起と観測を複数回行い、その得られた信号を足し合わせることで、スペクトルの強度を上げ、SNをよくしたりします。
n回の積算で$\sqrt{n}$倍SNがよくなり、信号強度N倍になるので測定時間に合わせて、積算を最大にとることが重要になります。
まとめ
とりあえず、NMRの基礎知識として以上は覚えておかないと、指示をうけても思い通り測定できず、スペクトルがいいのか悪いのかを判断するのが大変かもしれません。