NMRは難しくて使えない:論文①

こんにちは。

少し時間が空いてしまいました。
NMRの原理に関しては今後も時間があればどんどん更新していこうと思います。

NMRが実際に使われている論文を紹介してった方が面白いのではないかと思い、論文紹介を始めたいと思います。

まずは、日本には日本核磁気共鳴学会があります。
ここでの役員、理事についての論文を紹介するのがいいかなと思います。
というのも、やはりインパクトのある仕事または論文数がたくさんあること、論文数があるということは研究費をたくさん獲得している、研究費をたくさん獲得しているということは社会的に重要な課題であること、と考えているためです。

私の嗜好によって申し訳ないのですが、まず、高分子の固体NMRについて解説できればいいなと思ってます。
そうなると、東京農業工業大学の朝倉先生、防衛大学校の浅野先生、京都大学の竹腰先生、京都大学の清水先生、徳島大学の犬飼先生でしょうか。
もちろんまだまだたくさんいると思います。

固体NMRを用いるメリット

  • 架橋などによって、溶媒に溶 けない材料の化学構造の解析
  • 材料の結晶、非晶さらに界面成分の測定
  • 固体コンホ メー ションの解析
  • スピン拡散を利用した高分子のブレンド状態の解析
  • ベンゼン還を有するポリカーボネートなどの高分子材料 のベンゼ ン還のフリップ運動
  • ガラス状高分子の耐衝撃性と13CNMR緩和パラメーター(104~105Hzの分子運動)間の相関
  • 膜構造と気体透過、分離選択性などの膜性能間の相関(もちろん電池のセパレータフィルムにも利用)

など、実に多岐 にわたっています。また、固体NMRがなぜ流行っているかもわるかもしれません。

紹介する論文

今回は防衛大学校浅野先生の論文「Strain-induced 13C chemical shift change of natural rubber」から紹介します。

Kitamura et al.,
Strain-induced 13C chemical shift change of natural rubber
Polymer Journal volume 44, pages778–785(2012)
DOI:https://doi.org/10.1038/pj.2012.120

論文の背景と要旨

天然ゴムは合成ゴ ムとは異なりゲル分を含んでいます。そのため、圧延伸長すると、 バルク状態の物性と異なる物性を発現する可能性があります。固体NMRは綺麗な波形を得るため(相互作用を小さくするため)にある角度に設置・高速で測定中に試料を高速回転(MAS)させます。しかし、このMASによって、化学シフトがマジック角により修正 されてしまい、定量的な議論が難しくなります。この論文では、ローターが静磁場に対して垂直とな るStaticプローブを用いて固体NMRを測定し、柔らかい天然ゴム(NR)の変形の影響を調査しました。
MASを使うと、天然ゴムは圧縮伸長し、分子配向します。そうすると、物性や運動性に大きく影響を与えます。

内容詳細

figure2

論文内の図を引用

天然ゴムを様々な長さに圧延伸長した後の 静止状態13C NMRスペクトルです。
圧延する前の天然ゴムの静止状態13C NMRスペクトル(a)は、比較 的高分解能で等方的ピークが観測されます。これは、天然ゴムのガラス転移温度が200 K(-73°C)と低く、室温では非常に速 い分子運動が起きているからです。

ゴムは一般的な高分子材料(プラスチックと比べて)、運動性が高いんです。だから、室温において線幅の小さいスペクトルを得ることができます。今回、この論文を選んだ理由も、固体NMR登場以来、その中心がゴムだったことに由来しているためです。

運動性が高いとなぜ線幅が小さいのか
固体状態に特有の非常に強い1H -13C の双極子相互作用や巨大な 13C化学シフト異方性が分子運動により大幅に小さくなっていることを示しています。

一方で、MASによって円筒状に圧延伸長した天然ゴムの静止状態13C NMRピークは、1本の等方的ピークが見かけ上2本に分裂したピークとして観測されました。
(b), (c),(d)とゴムが伸びていくと、13C NMRピークの分裂幅は徐々に 広くなるのがわかりますね。
そして、伸ばして行った時のピークの分裂は、ゴムの結晶化の挙動に似ているということでXRDを取得してます。
その結果、この延伸によって結晶化が促進されることを明らかにしています。

次に、分子配向を調べるために、MASの角度依存性を確かめています。下図のeを見てください。
figure1
論文内の図を引用

結果、角度によってスペクトルが変化します。分子軸が1方向に配向すると、天然ゴムの構成ユニット中の二重結合もある程度方向がそろうからと推測してます。

次に、静磁場の強さ(H)に対する各試料の磁化の大きさ(M)をプロットし、磁化の傾きから質量磁化率(χm)が求めました。有機化合物 は一般に反磁性であるが,静磁場に対する磁化の変化は比例(比例定数は負)しており、天然ゴムは反磁性です。

短冊状試料 の長軸方向の平面を静磁場に対して垂直に設置した方が、平行に設置した時より傾きが 大きいです。
つまり、平行に設置した方が反磁性は大きいことを示しています。
規則正しく整列した二重結合のπ電子が つくる遮蔽磁場が、質量磁化率に方向依存性を与え、その結果13C NMR化学シフト値が変化すると考えています。

結論

MAS法によって圧縮伸長した天然ゴムは、圧延度に応じて静止状態13C NMRスペクトルが変化しました。
スペクトルの変化は、分子軸配向や天然ゴムの磁化率異方性の影響を受けたことが原因であることを見出しました。

 

Posted by xxxchem